アラキドン酸(20:4n-6)を多く含む油脂を蓄積する糸状菌Mortierella alpina 1S-4の宿主ベクター系を用いて遺伝子破壊を行った。一般的に糸状菌の遺伝子破壊は相同組み換え法を用いることが多いが、哺乳動物細胞や植物でよく研究されているRNAi法により遺伝子発現抑制を本菌に対して行った。アラキドン酸生合成に関わるΔ12不飽和化酵素遺伝子を対象とし、約700bpの二本鎖RNAが転写されるようなコンストラクトを構築し、M.alpina 1S-4発現用ベクターpDura5に組み込みRNAi用ベクターを構築した。本ベクターを用いて得た形質転換株の脂肪酸組成を調べたところ、オレイン酸が過剰に蓄積し(全脂肪酸中46%)、n-9系高度不飽和脂肪酸であるミード酸の蓄積が観察された。このことから、RNAiによりΔ12不飽和化酵素遺伝子の発現が効率よく抑制されたと推測した。 さらに、これまでに開発したウラシル要求性を指標としたM.alpina 1S-4の宿主ベクター系に加えて、新たに、薬剤ゼオシン耐性を指標とした系を開発した。本菌株は様々な抗生物質に耐性を示したものの、高濃度のゼオシンが胞子の発芽を完全に阻害することを見いだした。ゼオシン耐性遺伝子を組み込んだベクターpDZeoを構築し形質転換に用いた。得られた形質転換体は、20mg/mlのゼオシンに耐性を示した。本宿主ベクター系は、ウラシル要求性株を利用することなく、野生株や様々な高度不飽和脂肪酸蓄積性変異株に対して応用することができると考えられる。
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