これまでに、アラキドン酸(AA)の工業生産糸状菌であるMortierella alpina IS-4の形質転換系を構築し(平成16年度本研究課題)、高度不飽和脂肪酸生合成に関わる遺伝子の過剰発現と遺伝子発現抑制により、高度不飽和脂肪酸の生産性向上の可能性を示した(平成17年度本研究課題)。本年度では、脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子の発現抑制とω3脂肪酸不飽和化酵素(ω3DS)遺伝子の過剰発現を行い、高度不飽和脂肪酸の組成を大きく変えることに成功した。 1.M.alpina 1S-4の脂肪酸鎖長延長酵素(MAELO)遺伝子は、他の脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子と相同性が高いものの、その機能は明らかでなかった。そこでRNAi法により本遺伝子の発現抑制を行ったところ、炭素鎖長22以上の飽和脂肪酸が検出されなかったことから、本酵素遺伝子は主に超長鎖飽和脂肪酸の生合成に関与していることが示唆された。炭素鎖長20以上の超長鎖飽和脂肪酸は高度不飽和脂肪酸生成過程の不必要物質である。グルコースを炭素源とした培地で培養すると、野生株で超長鎖飽和脂肪酸は培養日数と共にその割合が増加し、培養14日目には総脂肪酸の8%に達する。一方で、MAELO-RNAi形質転換株では、超長鎖飽和脂肪酸は培養14日目でも検出されなかった。以上より、MAELO遺伝子発現抑制により超長鎖脂肪酸を含まないAA生産を示すことができた。 2.AAをエイコサペンタエン酸(EPA)に変換するω3DS遺伝子を本菌株で過剰発現させ、EPAの生産量を増加させることに成功した。野生株のEPAは総脂肪酸当たり8%蓄積するのに対して、ω3DS遺伝子過剰発現株では32%となったことから、EPAの生産を4倍増加させることができた。このようにある特定の遺伝子の過剰発現により、高度不飽和脂肪酸の生産性を向上できることを示した。
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