研究課題
本年度は糖尿病臨床診断に有用な糸状菌由来の酵素、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)の生理学的意義を解明することを目的とし、(1)カビ菌糸体内に存在するフルクトシルアミノ酸の解析、(2)麹菌(Aspergillus oryzae)におけるFAODアイソザイムの遺伝子発現解析、の2つを課題とし、以下のような結果を得た。(1)カビ菌糸体内に存在するフルクトシルアミノ酸の解析FAODは誘導酵素であり、生産菌を誘導基質であるフルクトシルアミノ酸を培地中に加えて培養すると、その菌糸体内に活性が見られる。しかしながら、フルクトシルアミノ酸を加えない無機最少培地においても、長時間(2-4日間)の培養によってFAOD活性が検出されることを見いだした。長時間の培養によってカビの菌糸体内にフルクトシルアミノ酸が生産され、結果としてFAODが誘導されるのではないかと考え、カビの菌糸体内に存在するフルクトシルアミノ酸の解析を試みた。最少培地で生育させたカビ菌糸体の抽出物からFAODの基質となるような画分を、クロマトグラフィーなどを用いて精製した。精製物のTOF-MS解析などの結果より、フルクトシルリジンとフルクトシルアルギニンが同定できた。これらの結果より、生理学的にフルクトシルアミノ酸が生成することを明らかにした。(2)麹菌におけるFAODアイソザイムの遺伝子発現解析麹菌は2つのFAODアイソザイム(AoFao1およびAoFao2)を持つが、ノーザン解析によりこれらの遺伝子発現について解析した。AoFAO2についてはFAODの誘導基質であるフルクトシルアミノ酸により顕著な発現が確認できたが、AoFAO1についてはフルクトシルアミノ酸による誘導効果が低いことが分かった。また、AoFAO2遺伝子破壊株では、AoFAO2ばかりでなくAoFAO1の発現も認められなかった。これらの結果より、AoFAO2の酵素反応生成物がAoFAO1を誘導するのではないかと考え、FAODの反応生成物である、アミノ酸、グルコソン、過酸化水素を用いて検討した結果、グルコソンによって両FAODアイソザイム遺伝子が発現することを見いだした。また、フルクトシルアミノ酸は硝酸還元酵素遺伝子の発現を抑制することを明らかにし、麹菌におけるフルクトシルアミノ酸の窒素源としての役割を考察した。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 69
ページ: 258-260
FEMS Microbiology Letters 248
ページ: 141-145