研究概要 |
白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporiumはリグニンやダイオキシンなどの難分解性有機物質を二次代謝的に分解する事が可能である。分解系発現にはcAMPシグナリングの関与が示唆されてるが、詳細については未解明である。本研究は網羅的発現解析によりcAMPシグナリング関連遺伝子を特定し、その性質や他の遺伝子との関わりを解析する事を主な目的としている。平成16年度まで、培養前期(分解機構発現前)、培養後期(分解機構発現後)、cAMP合成酵素阻害剤アトロピン添加条件(分解機構発現阻害)における菌体のmRNAを調製し、SAGE(Serial Analysis of Gene expression)法を利用した網羅的解析を行った。ところが、菌が生産する多糖類が混入するためRNA精製度が低くなり、良好なtagが生産されていないことが判明、また、14塩基のtag配列を生成するSAGE法では全ゲノムデータとの照合では単一の遺伝座に位置が特定できない事例が多く見られた。 以上のことをふまえ、17年度は改良したRNA生成法と21塩基のtag配列を生成するLong SAGE法を用いて培養前期、培養後期の解析を行った。前者のライブラリから13,666個、6,495種、後者のライブラリから7,512個、4,321種のtag配列を取得した。ライブラリ間の比較により、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子、Ca結合タンパク、manganese superoxide dismutase遺伝子などを含む少なくとも89種の遺伝子が培養後期に4倍以上up regulateされ、ハイドロホビン遺伝子などを含む少なくとも15種の遺伝子が培養後期に4倍以上down regulateされることが判明した。これらの結果により分解系発現時に菌糸疎水性の低下、Caシグナリング等の新たな機構の関与が示唆された。以上の結果を日本農芸化学会2006年度大会にて発表した。現在、投稿論文準備中である。 今後は、上記ライブラリからのtag解析を続け、tag数を増やすことにより低発現量遺伝子についても解析を試みるとともに、cAMP合成酵素阻害剤アトロピン添加条件についても解析する予定である。
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