研究概要 |
細菌のpHおよびNa^+恒常性に中心的な役割を持つマルチ遺伝子型Na^+/H^+対向輸送体(Shaシステム)の分子構造の解明を目標としている。本年度は、Sha蛋白質に対する新たな抗体作成と、Shaシステムのイオン輸送機能に必須なアミノ酸残基の同定を中心に行った。 Na^+/H^+対向輸送体を含め多くのカチオン輸送体では、膜貫通領域(TM)に存在するグルタミン酸(Glu)やアスパラギン酸(Asp)などの酸性アミノ酸残基がイオン輸送に重要な役割を持つことが知られている。Sha蛋白質ホモログのアライメント及び二次構造予測から、TM領域内に存在し、かつホモログ間で保存性の高い酸性アミノ酸残基を抽出した。部位特異的変異解析により、これらの残基のイオン輸送への寄与を調べた結果、枯草菌由来ShaAサブユニットでは113,657,747番目のGlu残基と743番目のAsp残基が輸送に必須であることを明らかにした。またB,D,Fサブユニットにも、機能に必須な酸性アミノ酸残基が存在した。 ShaE蛋白質を特異的に認識するShaE抗体の取得に成功した。この抗体を用いてウエスタン解析を行ったところ、上記の部位特異的変異体の膜画分におけるShaEの存在量は一定であったことから、変異体の表現型の差は株間におけるSha遺伝子産物の発現差によるものではなく、変異の性質によるものと考えられた。 本研究により、Shaシステムでは、機能に必須な酸性アミノ酸残基が複数のサブユニットにまたがって存在することが明らかとなった。これらの残基が互いに会合して一つのイオン輸送部位を形成するのか、もしくは独立して機能するのかを明らかにすることは今後の課題である。現在、アフィニティータグを利用したSha複合体精製を進めており、その結果と合わせれば、Shaシステムの分子構造についてより詳しい知見が得られると考えられる。
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