研究概要 |
セリシンは生糸中でフィブロイン繊維を包み、絹の精錬工程で加水分解抽出される。このセリシン加水分解物は、血清飢餓で惹起される昆虫細胞Sf9の細胞死を抑制し、細胞増殖を促進する。セリシンには、Ser, Thrなど親水性アミノ酸に富む38残基の特徴的な繰返しが大量に含まれている。38残基の2回連続ペプチド(SerD)に活性を発見しており、セリシン加水分解物の活性本体はこの繰返し配列であると考えられる。本年度はさらに、以下の点を明らかにした。 (1)38残基の繰返し単位を基に4種類のペプチドを合成し、特定の10残基ペプチドSP3(SGGSSTYGYS)にのみ、セリシン加水分解物と同様の顕著な血清飢餓細胞死抑制活性を見出した。またセリシン加水分解物やSP3は、細胞死抑制を介して、速やかな細胞生存率の回復や、細胞増殖促進を示すと判明した。 (2)SP3を基に各種短縮ペプチドを合成して構造機能解析を行い、最短活性配列はN末短縮解析からGSSTYGYS、C末短縮解析からSGGSSTYGと示された。ただし、SP3のN・C末端のSer残基も活性に重要であり、これを削ると活性が低下した。 (3)アミノ酸置換によって作出したSP3A2(SGGSSTAGAS)は失活し、SP3W2(SGGSSTWGWS)はSP3と同等の細胞死抑制活性を示した。よってSP3の活性には芳香族アミノ酸であるTyrやTrpの存在が重要と判明した。 (4)Sf9細胞を血清除去培養後、16時間後に染色体DNAを抽出して電気泳動解析したところ、明瞭なヌクレオソームごとの切断パターン(DNAラダー)が観察された。またこの切断はセリシン加水分解物によって顕著に抑制された。よってセリシン加水分解物は、血清飢餓によるアポトーシスを抑制すると判明した。なおこのアポトーシス抑制効果は、CHO細胞など哺乳動物細胞でも観察された。
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