絹タンパク質セリシンは、生糸ではフィブロイン繊維を包み、精錬で加水分解抽出される。セリシン分子は、Serに富む38残基が繰返す特徴的配列を持つ。これまでに各種細胞株においてセリシン加水分解物が血清飢餓・凍結・熱ショックによる細胞死を抑制することを見出し、繰返し単位内の部分ペプチドSP(SGGSSTYGYS)をその活性中心配列と同定した。また加水分解物の作用がアポトーシス抑制によることを明らかにした。さらにSP配列を連結して高活性化を試みたが、8回以上連結すると不溶化し、2〜6回連結(SP-2〜6)では生産量が少なかった。本年度は以下の2点を検討した。 (1)高活性化ペプチド創出の検討 3'非翻訳領域の伸張によるmRNA安定化、プロテアーゼを欠損する大腸菌宿主の利用、等を試みたが、生産量は改善せずSP-2〜6の活性は検討出来なかった。ところでSPペプチド(SGGSSTYGYS)の活性には、2つのTyrが重要であった。一般に、凍結や熱ショックによる細胞死には、活性酸素の関与が指摘されている。またこれまでに3残基ペプチドの網羅的解析から、Tyr-His-Tyr配列に強い抗酸化活性が報告されている。そこでSP配列のYGYをYHYに置換して¢SGGSSTYHYS£を合成し、活性を検討したが、比活性に変化はなかった。 (2)細胞死抑制機構の解析 昨年度J774.1株の熱ストレス細胞死抑制系を開発した。J774.1はマクロファージ系細胞株であり、食細胞刺激剤で活性化する。そこでJ774.1やヒト末梢血好中球の活性酸素産生に対するセリシン加水分解物の影響を検討した。比色法によるアッセイ系を確立したが、セリシン加水分解物による活性酸素産生への明瞭な影響は認められなかった。一方、Western解析からJ774.1の細胞死抑制機構にはMAPキナーゼのリン酸化亢進が関与していると考えられた(投稿準備中)。
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