研究概要 |
ガ類昆虫は複数からなるフェロモン成分をブレンドし、その割合を厳密に規定することにより種固有の性フェロモンを作り出している。しかしながら、種固有フェロモンブレンドの成分比決定メカニズムは不明であり、またそのメカニズムにおいて重要な役割を担う酵素も遺伝子レベルで明らかにされたものは僅かである。そこで、比較的シンプルなフェロモン生合成経路を有するカイコガを実験材料とし、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(desat)のクローニングを試みた。degenerate RT-PCRによりカイコガフェロモン腺から3種類のdesatが得られたことから、さらにバキュウロウイルス発現系とGC/MSを用いそれらの機能解析を行った。その結果、Desat1がカイコガ独特の連続した2段階の不飽和化反応に関与する極めてユニークなbifunctionalな脂肪酸不飽和化酵素であることが明らかとなった。また、Desat1発現Sf9培養細胞中に生じる2種類のフェロモン成分前駆体の比率が、カイコガフェロモン腺における比率とほぼ同じであったことから、Desat1にフェロモン成分の前駆体量を調節する役割があることが明らかとなった(Moto et al., PNAS 2004)。 異種生物での害虫性フェロモン産生系の構築に際しては、害虫由来の性フェロモン産生酵素遺伝子が必要であることから、性フェロモン生合成関連酵素の一つであるエポキシ化酵素の遺伝子クローニングを試みた。エポキシ化酵素は動物では未同定であるが、植物で同定されたこの酵素が脂肪酸不飽和化酵素と相同性を有していたことから、degenerate RT-PCRによりヨモギエダシャクフェロモン腺から脂肪酸不飽和化酵素様分子をコードする2種類のDNA断片を得た。現在それらの遺伝子の機能解析を行っている。
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