研究概要 |
昨年度の研究でイネのフラボノイド系ファイトアレキシンであるサクラネチンの生合成酵素ナリンゲニン7-O-メチルトランスフェラーゼ(NOMT)をコードする遺伝子の候補として,オオムギふのフラボノイド7-O-メチルトランスフェラーゼ(HVOMT)と高い相同性を持つAK069308,AK069721の二つの遺伝子を選定した.今年度はこの二つと,同様にHVOMTと高い相同性を持つAK072740を加えた三つの遺伝子について,大腸菌による組換タンパク質の発現を行い,そのNOMT活性の確認を行った.しかし,発現タンパク質は全くNOMT活性を示さなかった.一方,HVOMTとの相同性はこれらの三つの遺伝子ほどは高くないが,紫外線・塩化銅・ジャスモン酸処理によって顕著に誘導されるO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子AK069960を見いだした.現在のところ,AK069960が最もNOMT遺伝子である可能性が高いものであると考えている.大腸菌を用いたAK069960のGST融合タンパク質の発現を行ったが,可溶性タンパク質がほとんど得られず,現時点ではNOMT活性を検出することに成功していない.現在,効率的な可溶性タンパク質の発現系を検討しているところである. 従来の研究でNOMTであると間違って報告されていたコーヒー酸3-O-メチルトランスフェラーゼについて大腸菌による発現タンパク質を用いた機能解析を行った結果を学術論文として発表した. 昨年度の研究で初めて明らかにしたサクラネチンの代謝産物であるゲンクワニンについては,そのイネに対する生長阻害活性をサクラネチンと比較したところ,ゲンクワニンはサクラネチンと比較して非常に弱い阻害活性しか示さなかった.このことから,サクラネチンからゲンクワニンへの代謝はイネ体内におけるサクラネチンの自己毒性の回避として起こっている可能性が示唆された.
|