研究概要 |
まず,ヘアリーベッチにおけるシアナミド生合成経路の検討方法を確立することを目的とした。N-15安定同位体標識した硝酸イオンをヘアリーベッチ幼植物体に与え,植物体抽出物よりシアナミドを精製した。GC/MSにて分析し,N-14硝酸イオンを与えた植物体から精製したシアナミドの質量スペクトルと比較した。標識体窒素の取り込みが認められ,全窒素に対するN-15の割合は0.0065から0.143に上昇した。この結果はシアナミドの二量体であるジシアンジアミドに変換してからDI-EIMSで分析することによっても確認した。このことは,ヘアリーベッチが硝酸イオンからシアナミドを生合成していることを示しており,シアナミドが天然物であることが改めて証明できた。類似の方法を用いることで,植物体内に取り込まれた硝酸イオンからシアナミドへ至る中間体やシアナミドの生合成前駆体を明らかにできると考えられる。 標識体を投与した植物体からシアナミドを単離し,分析する方法の改善も試みた。有機溶媒を減圧除去する際にシアナミドを揮発により失う欠点があったが,DMSOを少量添加してから減圧除去することでほぼ完全にシアナミドの揮発を抑制できることが明らかになった。シリカゲルカートリッジカラムの使用により,シアナミドの回収率を高く保ちつつ,夾雑物の大部分を取り除けることも判った。このようにして純度を上げたシアナミド溶液をGC/MSにて分析すれば,添加した標識体が取り込まれたか否か,明確に知ることができる。今後,この方法を用いて生合成前駆体を明らかにする予定である。
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