研究概要 |
同位体希釈法を用いたGC-MSによるシアナミドの定量方法を用いて,ヘアリーベッチに含まれるシアナミド含量を経時的に定量した。インキュベータ内での栽培では,2-4週目にシアナミド含量が急激に増加することを明らかにし,この時期の植物体を用いて以降の実験を進めた。 まず,シアナミドと構造の類似した尿素を生合成前駆体候補物質と考えた。茎葉部にシアナミドと尿素が存在することを定量的に確認した。茎葉部にN-15標識した硝酸イオンやアンモニウムイオンを投与したところ,シアナミドへN-15標識は取り込まれたが,尿素は単離することができなかった。非標識の硝酸イオンやアンモニウムイオンを投与した同様の実験においては尿素を単離できるため,N-15標識した硝酸イオンやアンモニウムイオンが尿素の生合成を阻害していると推察された。さらに長期間培養を続けると,シアナミド中のN-15窒素の割合はそれにともなって増加した。尿素は標識体投与後まもなく含量が1/100以下になったにもかかわらず,シアナミドの生合成はその後も順調に続いたことになる。この結果は,尿素がシアナミドの生合成前駆体であるという前提では説明できない。シアナミドは尿素から生合成されていないと結論した。 尿素と,それ以外に直接の前駆体となり得ると考えられるL-アルギニン,およびアンモニウムイオンが同化されて有機体窒素の出発物質となるL-グルタミンの標識体を用いてシアナミドへの取り込み実験を行った。尿素は一度分解されてからシアナミドへ取り込まれることが確認され,前述の通り直接の取り込みは認められなかった。L-アルギニンのグアニジノ基も直接シアナミドへ変換されることは確認されなかった。また,L-グルタミンよりも硝酸イオンの方がよい基質となることから,シアナミドの窒素原子は有機体窒素由来でなく,無機窒素から直接生合成される可能性が示唆された。
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