研究概要 |
高等植物500種以上を対象にシアナミドの分布を調べたところ,ヘアリーベッチ以外に同じソラマメ属のクサフジと,ハリエンジュ属のニセアカシアがシアナミドを含むことを見出した。シアナミドの分布はこのように非常に限定的であり,植物一般にとって生理上必須の成分ではないことが明らかになった。また,ヘアリーベッチ用に開発した同位体希釈を用いたガスクロマトグラム-質量分析計によるシアナミドの定量方法は,他の植物一般にも用いることができることも示された。 クサフジはヘアリーベッチと比較してシアナミド含量が非常に多かったため,野外サンプルや室内栽培した個体を用いて分析を重ねた結果,再現性を確認した。そのため,ヘアリーベッチに代わってシアナミド生合成の研究材料として利用できる可能性があると考えたが,種子の購入が困難であること,成長が遅いこと,茎葉部を水溶液に挿して栽培することができないことなどから,そのような用途には不適であることがわかった。また,ヘアリーベッチやクサフジと同属で外見も非常に類似しているツルフジバカマは,野外サンプルおよび室内栽培した個体のいずれもシアナミドを全く含んでいなかった。このように,近縁種と思われる種間でシアナミド含有の有無が見出された結果は,将来的にシアナミドの生合成遺伝子の研究を進める際に,対照としての利用価値が高いと考えられる。 生合成前駆体の研究では,安定同位体標識したグルコースがシアナミドに取り込まれることが確認された。無機窒素の安定同位体標識も取り込まれることがすでに確認できているため,これら生合成経路の最も上流の前駆体が取り込まれる条件を応用し,今度さらに下流の前駆体の取り込み実験を進めていく際に活用することができる。
|