広島県倉橋島周辺でキュウセンを採取し、1匹の大型の雄と10匹前後の小型の雌を500リットル水槽内で同居飼育した。この中で、3日以上連続して雄と産卵行動を行った雌個体を、「性転換前の雌」のサンプルとした。これらの産卵雌の中から大小2匹を数組選んでペア飼育し、大きい雌が小さい雌に対して雄特有の求愛ディスプレイを示したら、この大きい方の雌を「性転換後の雌」のサンプルとした。得られた性転換前後の雌の生殖巣を固定し、切片を作成して顕微鏡観察した。その結果、性転換前の雌はいずれも発達した卵巣を持っていたが、性転換後の雌には、卵と精子が混在する両性生殖腺を持つ個体から、ほとんど精子だけの二次精巣を持つ個体まで存在し、個体によって性転換の進行度が大きくばらついていた。そこで、「性転換後の雌」として、性転換が完了した雄個体(二次雄)を野外から採取することにした。しかし、得られた雄個体の精巣の形態を観察したところ、大部分は一次精巣を持った生まれながらの雄(一次雄)であることが判明し、性転換を経た二次精巣を持つ二次雄は10匹中1匹しか見つからなかった。一方、キュウセンの近縁種であるホンベラについても同様の調査を実施したところ、大部分の雄は二次雄であった。さらに、ホンベラの方がキュウセンよりも大量捕獲が容易であったことから、実験材料としてホンベラを使用することにした。繁殖盛期である7月から8月の間に捕獲したホンベラの雌(約50匹)と二次雄(約20匹)から脳を採取し、-80℃にて凍結保存した。その一部の脳を用いて、抽出条件の検討を行った後、予備的にSDS-PAGEによる総抽出タンパク質の分析を行った。さらに、抗ホスホセリン、抗ホスホスレオニン、抗ホスホチロシン抗体を用いてウェスタンブロッティングを行ったが、これまでのところ、雌と二次雄の間で変動が見られるリン酸化タンパク質は見いだされていない。
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