我々の以前の研究で大腸陰窩上皮間または陰窩上皮周囲に存在するリンパ球の局在がCD161とCD8で異なることを明らかにした。昨年度は、当該リンパ球に存在するケモカイン受容体発現の検討を行うために粘膜上皮間及びその周囲に存在するリンパ球分離法を確立したので、今年度は粘膜固有層リンパ球(LPL)におけるケモカイン受容体の発現を検討した。上皮間リンパ球(IEL)は殆どがCD8+なので、IELに移行途中の段階と考えられるLPLをCD8+とCD8-画分に分画した。これらの細胞間で発現の異なるケモカイン受容体を検討したところ、XCR1とCCR10はどちらもCD8+LPLでは発現が見られるのに対しCD8-LPLでは発現が見られなかった。これらに対応するリガンドがCD8+リンパ球の上皮への誘導に関与する可能性が示唆された。そこで、消化管上皮で分化領域と増殖領域が比較的明確な小腸を用いて、機械的に分離した絨毛及び陰窩画分でのケモカインリガンドの発現をRT-PCRを用いて解析した。絨毛-陰窩における発現検討ではCCL9とCCL28が共に陰窩内での発現が高い事を明らかにした。これらの結果から、静的な状態で増殖上皮と分化上皮が発現するケモカインのパターンが異なると考えることは必ずしも得策でないように思われる。消化管は比較的上皮細胞のターンオーバーが早い臓器として知られているので、増殖域上部で発現するケモカインに誘引されて上皮に接したCD8+リンパ球が接着分子などを介して分化上皮へ移行する可能性が考えられる。
|