本研究では消化管リンパ球の局在とそれにおよぼす食餌成分の影響についてケモカインの関与を検討した。本研究を通じて明らかになったことは以下の通りである。これまでにもパイエル板を除いたラット小腸粘膜固有層からリンパ球の分離が可能であったが、その分離法を改善することにより回収率を上げる事に成功した。また、その方法を基にしてラット大腸粘膜からのリンパ球分離を可能にした。難消化性糖類は上部消化管で吸収されずに大腸へ流入することで、そこに存在する腸内菌に資化されることを考えれば、大腸粘膜におけるリンパ球分離法の確立は今後の重要な課題を解決するための基盤技術となりうる。食餌成分として甜菜繊維(SBF)を用いた場合、WKAHラット盲腸部位におけるCD8^+上皮間リンパ球(IEL)の頻度を有意に増加させたが、小腸でも同様な現象が観察された。興味深いことに、盲腸に比べ小腸での上昇率の方が極めて高いことが明らかになった。しかし、このSBF摂取による小腸でのCD8^+ IEL増加は、ラットの系統により異なることが示された。DAラットではこのような小腸における増加は全く確認されなかった。このことは遺伝的背景により食餌による消化管粘膜リンパ球局在調節機構が異なることを示している。小腸から機械的に陰窩および絨毛部位を分離し、それぞれRT-PCR解析を行ったところ、この部位間で異なる発現を示すものとしてCCL9及びCCL28を見いだすことが出来た。しかし、SBFによる発現の増強や減弱は見られなかった。これらのことから、消化管絨毛から分泌されるケモカインそのものよりも、リンパ球側のケモカイン受容体発現や上皮における接着分子発現により食餌によるリンパ球分布が調節されている可能性が考えられる。
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