亜鉛は必須微量元素の一つであり、人における潜在的欠乏症としては味覚障害が知られている。食生活の乱れや欧米化(微量元素を多く含む食材の減少)、化学肥料過剰投入(農作物中微量元素の減少)、高齢化や生活習慣病に伴う服薬(微量元素の吸収阻害)などにより、こうした微量元素の潜在的欠乏が増加している。申請者らは亜鉛欠乏(味覚障害)ラットを用いた神経生理学的研究により、亜鉛欠乏が末梢での味受容能を低下させることを明らかにした。亜鉛は海馬に高濃度に含まれ、神経伝達物質放出を調節する作用が明らかにされている。しかし神経細胞やダリア細胞(特に髄鞘形成に関与するオリゴデンドロサイトやシュワン細胞)に対する亜鉛の作用については、不明な点が多い。そこで本研究では、神経細胞およびダリア細胞に対する亜鉛の作用を明らかにすることを目的とし、ラットにおいて検討した。実験1では程度の異なる亜鉛欠乏ラットを作出し、三叉神経舌枝有髄神経線維の組織学的観察を行った。その結果、亜鉛欠乏(重篤な亜鉛欠乏)ラットの三叉神経舌枝有髄神経線維髄鞘の厚さは、コントロールラットに比べて有意に薄かった。低亜鉛(潜在的亜鉛欠乏)ラットでは、亜鉛欠乏ラットとコントロールラットの中間の厚さであり、髄鞘の厚さは食餌中亜鉛含量に依存していることが示唆された。そこで実験2では、ラットダリア細胞に対する亜鉛および他微量元素の作用を検討することを目的とした。ラット胎児(胎生17日)大脳由来のダリア細胞を、購入したCO、インキュベーター(UVランプ付)を用いて培養し、亜鉛および他微量元素が及ぼす影響について、新位相差セットを備えた培養倒立顕微鏡にて観察した。
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