亜鉛は必須微量元素の一つであり、人における潜在的欠乏症としては味覚障害が知られている。食生活の乱れや欧米化(微量元素を多く含む食材の減少)、化学肥料過剰投入(農作物中微量元素の減少)、高齢化や生活習慣病に伴う服薬(微量元素の吸収阻害)などにより、こうした微量元素の潜在的欠乏が増加している。申請者らは亜鉛欠乏(味覚障害)ラットを用いた神経生理学的研究により、亜鉛欠乏が末梢での味受容能を低下させることを明らかにしてきた。亜鉛は海馬に高濃度に含まれ、神経伝達物質放出を調節する作用が明らかにされている。しかし、神経細胞やグリア細胞(特に髄鞘形成に関与するオリゴデンドロサイトやシュワン細胞)に対する亜鉛の作用については不明な点が多い。申請者は平成16年度の本研究において、程度の異なる亜鉛欠乏ラットを作出し、亜鉛欠乏ラットの三叉神経舌枝有髄神経線維髄鞘の厚さがコントロール(亜鉛添加食、Pair-fed)ラットに比べて有意に薄いこと、低亜鉛(潜在的亜鉛欠乏)ラットの三叉神経舌枝有髄神経線維髄鞘の厚さは亜鉛欠乏ラットとコントロールラットの中間の厚さである(髄鞘の厚さが食餌中亜鉛含量に依存している)ことを観察した。そこで本研究では、ラット神経細胞およびグリア細胞に対する亜鉛の作用を明らかにすることを目的とした。ラットグリア細胞(S100プロテイン産生)由来C6細胞、ラット副腎褐色細胞腫由来PC-12細胞、ラット肝由来BRL-3A細胞、ラット(胎生17日)大脳皮質由来CX(R)細胞に対する亜鉛および他微量元素の作用を明らかにするため、継代培養法について検討した。その結果、安定して継代培養できるようになり、適する培地組成や添加刺激条件などが得られた。現在、さらに検討を進めている。
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