平成16-17年度における本研究では、程度の異なる亜鉛欠乏ラットを用いた組織学的検討を行い、三叉神経舌枝有髄神経線維髄鞘の厚さと軸策の太さを比較した。その結果、重篤な亜鉛欠乏ラットでは、コントロール(亜鉛添加食をペアフィーディングさせた)ラットに比べて、三叉神経舌枝有髄神経線維髄鞘の厚さは有意に薄く、軸策の太さは有意に細いことが示された。また、潜在的亜鉛欠乏ラットの髄鞘の厚さと軸策の太さは、重篤な亜鉛欠乏ラットとコントロールラットの中間の値であり、髄鞘の厚さと軸策の太さは食餌中亜鉛含量に依存していることが明らかとなった。これらの結果から、亜鉛は髄鞘形成に関与する可能性が示唆される。グリア細胞(神経膠細胞)は、神経細胞の周囲で神経細胞を保護していることが知られている。そこで本研究では、ラットグリア細胞由来のC6細胞を用い、亜鉛および他微量元素がC6細胞に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 C6細胞(細胞培養用に樹立された神経膠腫の細胞株)は、ラット脳由来の星状膠腫(アストロサイトーマ)で、継代可能な細胞株である。正常のアストログリア(星状膠細胞)の細胞形質を保持し、細胞内にはS-100タンパク質、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)を多量に発現し、細胞膜表面には各種神経伝達物質受容体をもち、細胞内情報伝達系としてGTP結合タンパク質、アデニル酸シクラーゼ、グルココルチコイド受容体などが存在すると報告されている。そこで本研究では、培地(Ham'sF-10培地)中の亜鉛含量を変化させ、新位相差型培養倒立顕微鏡(平成16年度科研費補助金にて購i入)にて、C6細胞の増殖の様子を詳細に観察した。C6細胞は線維芽細胞様であり、核、明るい細胞質、多数の突起(紡錘形)が観察された。紡錘形突起が細長く伸びる様子、および伸長速度は、培地への亜鉛添加の程度に影響を受けることが観察された。初代培養したグリア細胞を用い、亜鉛および他微量元素がグリア細胞に及ぼす影響について、更に検討する必要があると考えている。
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