飽和脂肪酸(パルミチン酸あるいはステアリン酸)の一価不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸あるいはオレイン酸)への転換を触媒するステアロイルCoA不飽和化酵素(SCD)アイソザイムSCD1、2および3の様々な組織での遺伝子発現量に与える、食餌脂肪の量およびタイプの影響を調べた。Sprague-Dawley雄ラットを低脂肪食(2%サフラワー油食)あるいは20%のパーム油(飽和脂肪)、サフラワー油(リノール酸が主成分)と魚油(EPAとDHAを高含有)を含む高脂肪食で3週間飼育した。SCD1の発現は高発現組織(各種脂肪組織(睾丸および腎臓周辺白色脂肪組織と肩胛骨間褐色脂肪組織)と肝臓)で各種高脂肪食により強く抑制されたが、パーム油での低下は比較的小さかった。SCD2発現は最も高発現する組織、脳では食餌脂肪の量とタイプにより影響を受けなかったが、各種脂肪組織では高脂肪食によって強い発現抑制が見られた。脳と同様、肝臓での発現は食餌脂肪の量とタイプにより影響を受けなかった。SCD3は各種の組織に広く発現する。腎臓周辺脂肪組織では高脂肪食により強い発現抑制が見られたが、他の組織(睾丸周辺白色脂肪組織、褐色脂肪組織、肝臓、脳、腎臓、心臓と皮膚)では発現量に変化が認められなかった。脂肪酸一価不飽和/飽和比は脳以外の各種組織でサフラワー油と魚油で低下した。以上の観察から、生体内での飽和脂肪酸の一価不飽和脂肪酸への転換には脂肪組織と肝臓が主要な役割を果たしていること、さらにこの反応にはSCD1と2両者が重要名役割を果たしていることが示唆された。SCD3の関与は少ないと思われるが、特定の組織では重要な役割を果たしている可能性は否定できない。
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