甘味は舌の先端、苦味は舌の奥で感じるといったいわゆる舌の味覚地図は広く知られているが、誤りであることが生理学的に確かめられている。また、基本五味は舌のどの部位でも感じることができるが、その感受性の強さは舌の先端と奥では異なることも明らかにされている。しかしながら、舌の部位による感受性の差の原因については明らかにされていなかった。そこで、本研究は味覚関連遺伝子の舌の部位による発現様式の差を調べることにより、感受性の差の原因遺伝子を明らかにするとともにそのメカニズムについて明らかにすることを目的として行った。昨年度は甘味受容体T1r2/T1r3と甘味と苦味に関与する味蕾特異的Gタンパク質gustducinが舌の奥の有郭乳頭の味蕾では別々の細胞で発現しているが、舌の先端の茸状乳頭の味蕾では共発現していることを明らかにし、甘味情報伝達が舌の部位によって異なることを示唆する結果を得た。そこで今年度は、舌の側部に存在し舌の奥を支配する舌咽神経と舌の先端を支配する鼓索神経に支配されている葉状乳頭に存在する味蕾におけるT1r2/T1r3とgustuducinの共発現様式を調べた。その結果、葉状乳頭の味蕾におけるこれらの遺伝子の共発現様式は有郭乳頭の味蕾のそれとほぼ同様であることが示され、葉状乳頭の味細胞の性質は有郭乳頭の味細胞と類似することが示された。 また、うま味受容体T1r1/T1r3とgustducinとの関係についても同様の実験を行なった。その結果、うま味も甘味と同様に茸状乳頭ではgustducinが関与し有郭乳頭では関与しないことが示唆される結果が得られた。甘味と同様うま味でも葉状乳頭の遺伝子発現様式は有郭乳頭とほぼ同様であることが明らかになった。
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