AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞内AMPP/ATP比の上昇に伴って多くの代謝系酵素群をリン酸化することで酵素活性を調節し、細胞内エネルギーバランスを制御することが知られている。近年、AMPKはある種の転写因子をリン酸化することで代謝系酵素群の遺伝子発現を直接制御することも知られてきたが、その分子機構には不明な点が多い。そこで本研究ではAMPKによってリン酸化される新規の転写因子を同定し、機能解析を試みた。 糖新生系の鍵酵素であるphosphoenolpyruvate carboxykinase(PEPCK)遺伝子プロモーター上に、AMPKの活性化剤として知られる5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-β-D-ribofuranoside(AICAR)依存的に転写を抑制する領域を同定した。この領域に結合する因子を酵母one-hybrid法によりクローニングし、GBPと名付けた。GBPはN末端領域に核移行シグナル、中央部にグルタミン酸に富む領域、C末端領域にZn-fingerを持つ新規の因子であった。in vitroの解析により、470番目のセリンがAMPKによって特異的にリン酸化されることが分かった。GBPはリン酸化に伴うDNA結合能の消失が観察されたが、リン酸化を受けない人工変異体(S470A)は結合能を維持していた。GBPはリン酸化されることによってPEPCK遺伝子の転写を負に制御したが、S470A変異体にはその機能が消失していた。以上のことから、GBPはAMPKシグナル伝達系の下流に位置し、糖新生を調節する新規転写因子として機能する可能性が示唆された。
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