本研究によって、fragment G binding protein(GPB)と名づけた新規転写因子の同定に成功した。これまでのin vitroにおける研究成果により、GBPの性状は以下に要約される。 1)GBPは、糖新生系の鍵酵素遺伝子であるphosphoenolpyruvate carboxykinase(PEPCK)遺伝子プロモーター上に結合する。 2)GBPはN末端領域に核移行シグナル、中央部にグルタミン酸に富む領域、C末端領域にZn-fingerを持つ新規の因子である。 3)470番目のセリンがAMP-activated protein kinase(AMPK)によって特異的にリン酸化される。 4)GBPはリン酸化に伴うDNA結合能の消失が観察されたが、リン酸化を受けない人工変異体(GBPS470A)は結合能を維持する。 5)GBPはAMPKでリン酸化されることによってPEPCK遺伝子の転写を負に制御する。 以上のことから、GBPはAMPKシグナル伝達系の下流に位置し、糖新生を調節する新規転写因子として機能する可能性が示唆された。現在糖尿病治療薬として使われているメトフォルミンはこれまで作用機序が不明であったが、最近AMPKの活性化を伴うことが報告された。AMPK下流のシグナル伝達系を詳細に解析することは、わが国の最も深刻な生活習慣病の一つである糖尿病の発症の予防、治療に貢献できる可能性がある。
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