既に成立した森林では、樹木と共生する多くの外生菌根菌(菌根菌)が土壌中に普遍的に存在する。このため、森林で新たに定着・更新しようとする植物が、菌根菌の欠如によって成長が阻害されることはほとんどない。しかし、森林破壊によって宿主である樹木が無くなると、そこに共生していた菌根菌も消滅し、その後の樹木の更新を妨げる大きな要因ともなりうる。一次遷移の初期にある富士山火山荒原では、休眠胞子などが存在せず、フィールドで外生菌根菌の感染しない対照区を設けることが可能であり、菌根菌の機能解析のためのフィールド実験に最適な場所である。この火山荒原に最初に定着する宿主植物はミヤマヤナギで、一部の植生パッチに自然定着している。ミヤマヤナギとカラマツ、ダケカンバの当年生実生を、裸地、ミヤマヤナギのない植生パッチ、ミヤマヤナギのある植生パッチに植栽する実験を行ったところ、先着するミヤマヤナギのある植生パッチでのみ、実生に菌根が形成された。自然に定着したカラマツとダケカンバ、ベニバナイチヤクソウについても、発見された全ての個体がミヤマヤナギの存在する場所に定着しており、共生する菌根菌もミヤマヤナギとほとんど共通であった。また、現地から分離した11種の菌根菌を接種することによって1年生の菌根苗を作成し、この菌根苗から伸びる菌糸によってミヤマヤナギ当年生実生に菌根菌を感染させる実験を現地で行った。その結果、いずれの菌種でも菌根苗から当年生実生への菌根菌の感染が確認され、ウラムラサキを除く10種の菌では、実生の窒素吸収量や成長も促進された。こうした研究結果は、先着した菌根植物とその後に侵入する実生との間で菌糸ネットワークが形成されることが、実生の養分吸収や成長、そして定着に重要であることを示すものである。こうした菌根共生のフィールドでの機能を明らかにした研究成果は国際誌で高い評価を受けている。
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