研究概要 |
北海道浦幌地域に生息するヒグマ集団は,長期的には個体数が減少しているにも関わらず農作物食害や人里出没など被害を増加させており,有害駆除数も増加している.ヒグマは繁殖率が低いため強い駆除圧が続けば地域集団はすぐに絶滅してしまうと思われるが,現実には被害は毎年発生し,生息数も維持されているように見える. こうした地域集団の維持には,生息密度の高い他地域からの移入が重要な役割を果たしていると考えられる.ヒグマのオスは出生地から分散することが知られている.浦幌地域において見かけ上生息数が保たれているのは,強い駆除圧がオスの移入数増加をもたらすためであると予想される. この仮説を検証するために,野外にてヒグマの体毛のサンプリングを行った.今年度は,5-11月にかけて,森林内の試料としてヒグマの背擦り木に付着する体毛を回収し,またヒグマが侵入する農地周囲では体毛回収トラップを設置して体毛を回収した. この結果,背擦り木からは93試料,農地周辺からは107試料を得ることができた.これらの試料からDNAを抽出し,マイクロサテライトDNAの多型解析による個体識別,ならびにミトコンドリアDNAの多型解析を継続中である. また,過去の調査で回収済みのヒグマの体毛,および駆除個体の肝臓についても同様の実験を行った.2000年に回収した83試料について必要な遺伝子型を得ることができ,17頭を識別した.このうち,少なくとも6頭が農地に侵入したことが明らかとなった.この成果については,2005年3月に開催された日本森林学会大会にて発表を行った. さらに,ミトコンドリアDNAの多型解析から,浦幌町に生息するメスには見られないハプロタイプを持つオス個体が浦幌町内で複数確認され,他地域からの移入個体の存在が示された.今後も2解析を続ける予定である.
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