研究概要 |
北海道浦幌地域ではヒグマによる農作物食害が多発しており,その対策として強度の有害駆除が実施されているが,被害は減少していない。ヒグマは繁殖率が低く,強い駆除圧が続けば地域集団はすぐに絶滅してしまうと思われるが,被害を出す個体数は維持されているように見える.この地域集団の維持機構としては,駆除による減少分を定着個体の繁殖により補充されている,または周辺地域からのオスの分散移入により補充されており,定着繁殖メスの生息数は減少しているものの見かけ上生息数が保たれているという可能性がある。 DNA多型解析を用いた個体識別と出生地推定によりこの仮説を検証するため,昨年度に引き続き野外にてヒグマの体毛のサンプリングを行った.今年度は,5-11月にかけて,森林内およびヒグマが侵入する農地周囲に設置した体毛回収トラップ,およびヒグマの背擦り木から回収した体毛を計455試料回収し,解析を進めている。 過去の調査で回収済みのヒグマの体毛,および駆除個体の試料をもとに,2000年に回収した100試料から17頭を,2003年に回収した29試料から9頭を,2004年に回収した52試料から11頭を識別した。また駆除個体の試料から17頭の遺伝子型を得た。これまでの結果を総合すると,年度間の重複を除き41頭が識別された。2000-2004年の結果は,浦幌地域集団の性比がオスに偏っていることを示しており,繁殖メスが減少していることを示唆した。 これら41頭のうち19頭(♂10,♀9)についてミトコンドリアDNAハプロタイプが明らかとなり,浦幌地域に生息するメスには見られない持つオス個体5頭が確認され,他地域からの移入個体であることが示された.今後も解析を続ける予定である.
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