研究概要 |
ブナ(Fagus crenata)は山岳域における最も主要な広葉樹種であるが,ごく最近の年輪年代学的な研究結果より,他の樹種に比べて生育地によって年輪幅の変動パターンや気候応答が異なることが明らかになってきている。そこで,種子の結実や食葉性昆虫の発生量が継続的に測定されている八甲田山及び八幡平を対象に,異なる標高に生育するブナの年輪幅および年輪内年輪内最大密度に及ぼす気候要素,結実量,食用性昆虫個体群密度の影響を解析した。 八甲田山(標高410,700m)八幡平(標高820,1080m)の4箇所において成長錐を用いて、コア試料を採取した。軟X線デンシトメトリにより、年輪幅と年輪内最大密度を測定し、生育地を代表とする時系列であるクロノロジーを作成した。これらのクロノロジーと青森または盛岡の月平均気温および,月降水量(1898〜2001年),種子結実量(1988〜1994年),ブナアオシャチホコ個体群密度(1987〜2004年)との関係について単回帰分析を行った。 その結果,1)必ずしもすべての生育地間で年輪幅や年輪内最大密度の変動に共通性が認められなかった。2)結実量は年輪幅や年輪内最大密度の変動に大きな影響を与えていなかった。3)ブナアオシャチホコは大発生時に翌年の年輪幅,当年及び翌年の年輪内最大密度に影響を及ぼしていた。4)気候要素との関係については,生育地によって異なる気候要素との有意な相関関係が得られた。以上の結果から,従来考えられてきた結実が肥大成長に及ぼす影響はそれほど大きくないと考えられる。また,生育標高などによって肥大成長を制限する気候要素が大きく異なる可能性が示唆された。したがって,現段階では温暖化に伴う広域的なブナ肥大成長量の変化の予測は難しく,より多地点における結果の蓄積を元に予測をする必要があると言える。
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