繊維ネットワークの粘弾性特性は、繊維の軸比、繊維自身の弾性率、分散媒のイオン強度や分散剤の有無等によって影響されることが考えられる。これらの因子を変化させつつ、系の粘弾性特性を測定し、どのような条件が系の粘弾性特性に影響を与えるかを検討した。具体的には、パルプ繊維あるいはその加水分解物を水に分散させた系を試料として用い、繊維ネットワークの粘弾性挙動を回転形レオメータを用いて測定した。その結果、いずれの分散系を測定した場合でも、系の弾性率Gは繊維濃度cに対してG=kc^aと書けることが明らかとなった。微結晶セルロースからなる繊維分散系は、三次元的に等方的な構造をしているが、この場合べき指数の値aは2.25となった。この値は、良溶媒中のポリマーゲルに対する値に等しい。また、パルプ繊維が積層した構造をもつ分散系では、べき指数の値aは3になった。さらに、バクテリアセルロース膜については、aの値は5になった。このことから、aは繊維分散系のネットワーク構造を反映していることが示唆された。一方、繊維の軸比あるいは繊維の弾性率が低下するとフロントファクターkの値が低下することが示された。このことから、kは分散系のネットワーク構造よりもむしろ単繊維の性質を反映していることが示唆される。繊維の軸比pおよび弾性率Eを変化させて検討を行ったところ、k=(定数)×Ep^2であることが示された。
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