我が国のサケを含む北太平洋のサケ属魚類は、1970年代から回帰親魚の小型・晩熟化が進行している。その原因として、漁業や人工孵化放流による人為選択の可能性や環境変化に応答して生じたとする可能性が指摘されている。本研究では、サケ属魚類の資源動態モデルを構築することにより、成長低下による表現型可塑性で小型・晩熟化を説明できるのか、遺伝的変化が存在するのかについて検証することを目的とした。 本年度は、サケ属魚類の資源動態(回帰親魚の体長・年齢組成を含む)をシミュレーションするためのモデル構築に着手した。サケの成長条件と成熟開始齢の関係式を明らかにするため、北海道に回帰した成熟個体およびベーリング海に生息する未成熟個体を収集した。得られた標本は、鱗の輪紋間隔の計測を行い、バックカリキュレーション法を用いて過去の成長履歴を順次推定している。これまでに得られた成長履歴と成熟率の関係式を用いてサケの年齢・サイズ構成モデルを構築した。その結果、成長低下による表現型可塑性で実際の小型・晩熟化を定性的には説明できるということが分かった。 環境変動が資源動態に及ぼす影響を調べるため、生活史がシンプルなカラフトマスをモデルとして、気象条件が生存率に及ぼす影響について解析を進めた。また、人工孵化事業による人為選択を受けていないサケの自然再生産率を推定する手法の開発にも着手した。得られた成果の一部は、平成16年10月にホノルルで開催された北太平洋海洋科学機関PICESの年会で発表した。
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