研究概要 |
種苗放流では種苗生産技術と並んで,放流効果についての検討が問題となる.また放流効果の判定では放流個体と天然個体との識別が必要である.甲殻類は脱皮による成長を行うため,タグなどの標識は欠落してしまうことから,近年生物の遺伝標識が注目されている.そこで,本研究では高感度マイクロサテライトDNAマーカーを用いて核DNAの情報を遺伝標識として利用し,アミメノコギリガザミの放流効果調査の基盤となる親子鑑定試験について検討した. 天然からアミメノコギリガザミの雄および未成熟の雌を採集し,飼育下で雄雌1対1(1×1)を交尾・産卵させた.ふ化した幼生はゾエア1〜5期まで種苗生産し,作成した子供と両親のゲノムDNAをゲノムDNA精製キットを用いて抽出した.これまでの研究で開発したマイクロサテライトマーカーから多型性が高いと思われるSCY07,SCY09,SCY15,SCY39の4つのマーカーを用いて多型解析を行った.同一の親による異なる産卵のロット(一番仔,二番仔)間および幼生のステージ(ゾエア1〜5期)間の遺伝子頻度について検討を行った. 同じ親から生まれた一番仔のゾエア1期(Z_1)幼生と二番仔のZ_1を用いて,遺伝子頻度・遺伝子型を比較したところ,同一ロット内での偏りもみられず,また産卵時期(ロット間)の差はみられなかった.また,Z_5まで種苗が生産できた二番仔ではZ_1〜Z_5間の各ステージおよびステージ間での遺伝子頻度・遺伝子型は均一であり,差はみられなかった.以上の結果から,マイクロサテライトDNAマーカーを用いることにより親子鑑定は可能であり,放流個体と天然個体との識別も可能であると思われる。また4つのマイクロサテライトマーカーを用いた解析において個体の遺伝子型の重なりは少なかったことから,供試個体数に依存するが,多くのマーカーを用いることにより兄弟間の個体識別も可能であると思われた.
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