本研究は実態調査により小型木造漁船の製造に係わる社会構造を明らかにして、木造漁船産業がどのような段階を経て崩壊していくのか、そのプロセスを詳細に解明する。特に造船材に使われる木材が立木の段階から船体になるまでの全過程に係わる技術(造材技術、運材技術、製材技術、船体建造技術)と地域資源(自然材、労働力など)との関係が時代区分別に顕わになるまで明らかにする。次いで、木造漁船衰退の契機となったFRP船体の建造技術が漁村の零細造船所にどのように導入され、どのように船大工にその技術が普及したかを調査し、造船所が木造船からFRP船建造にすぐに移行し得た論理を解明する。 本年は、小型木造漁船船体の建造技術、および、造船用材の製材技術、造材技術、流通を調べ、高度成長期前後の造船用材の供給構造を分析した。 論点は以下である。造船用材は農林規格で定められた一般用材と異なり特殊材である。また、造船用材に係わる造材作業や製材作業は、手間がかかる上、技量が必要なため、熟練作業者がその作業を担っていた。それゆえに、一般的な用材と比較すると造船用材の流通経路は隘路であった。これは、伝統的な建造方法が続けられてきた和船型漁船の船体部材が規格化できないことに起因する。ただ、機械化体系になる前の高度成長期前は、技能を有した林業労働力、製材労働力が豊富であり、また造船材向け資源も豊富にあったため、後の時代と比較すると造船用材の調達は安定していた。しかし、高度成長期に入り造船用材の造材業・製材業の機械化が進み、熟練の労働力が激減し、かつ、造船用材を製材していた送材車付きバンドソーが製材工場から姿を消し、造船用材の流通経路はさらに隘路化した。
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