1980年代以降の食品加工残渣・廃棄物の飼料利用におけるリサイクル経路の変化とその要因、およびそこで発生する需給調整のあり方について、北海道におけるビール粕の飼料利用を対象として調査・考察を行った。 1980年代中葉まで、北海道に立地するビールメーカーは僅かに1社だけであったためリサイクル経路は道央圏の酪農生産者組織との間に限定されていた。しかし、90年代前半以降、(1)飼料コスト削減、給与省力化等を目的とした酪農・肉牛部門におけるTMR利用増大、(2)景気後退及び酒税制度変更にともなうビール粕発生量の減少、(3)ビール粕需要増大にともなうメーカーにおける処理作業の煩雑化、(4)工場近隣での需要量減少等の諸要因から、リサイクル経路は大きく変容し、広域化・複線化したリサイクル経路が構築されたのである。このリサイクル経路は、大規模酪農・肉牛農家、TMRセンター、飼料メーカーといった比較的需要量の多い需要者とメーカーとの間で独自に構築されており、中小規模の酪農・肉牛農家がそこから排除されるという課題を有している。また、メーカーと農家が、食品加工残渣・廃棄物由来飼料原料に対してまったく異なる基準からアプローチをしていることに起因する需給接合の限界にも注意を払う必要がある。すなわち、メーカーは廃棄物としての処理コストを、農家は既存飼料の調達コストを基準としているため、その両者が満たされない場合にはリサイクル経路は構築されないのである。その場合、飼料化コスト引下げのための技術開発と外部不経済としてのコスト負担に問題は帰結するが、一方での輸送距離延長と輸送コスト上昇、他方でメーカーならびに農家が価格競争に編入されている状況下では、コスト負担問題はいっそう深刻化すると考えられる。そのためコスト問題だけでは食品加工残渣・廃棄物のリサイクル利用推進と酪農畜産業の振興という課題において展望を見いだすことは困難であるといえよう。
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