本年度は、水利施設が有する親水機能の構成を分析・提示するための手法について研究を行った。前年度に得られた親水機能と判断される性能が、どのような要素がどのように影響し合って形成されるのかを適切に表現することが目的である。これは、性能規定化において、基本となる重要な作業である。そのために、施設の景観という現象に着目した。施設の景観は施設単独ではなく、その周辺地域の景観と相互に影響し合ってはじめて成立するものであり、地表の景観的特色(地形・植生・土地利用など)を、その背後の環境システム、たとえば自然的システム(自然の営力・土壌・気候・生態系など)や人文的システム(都市化・産業構造など)の作用の結果として捉える、土地分類学的景観論的な視点で親水機能を考察することには、大きな意義がある。そこで、施設の景観をその施設が有する(親水機能を含む)多面的機能が相互に作用した結果の視覚現象として体系的に記述することを目指した。具体的にはため池を対象とし、定性微分方程式系を用いた曖昧で定性的な事象の定式化と定性シミュレートによる妥当性の検証という定性推論の手法によって、これまでの研究や経験によって蓄積されてきた数々の知識を統合・整理することができた。この結果、施設が有すう多面的機能に係わる事象を的確に表現したモデルを構成するための手法が確立された。このことにより、親水機能に留まらず、広く多面的機能と称される性能を性能規定化するための作業を、ある程度の客観性をもって行うことが可能になった。
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