本研究は、低温下における植物の水輸送の動態とアクアポリンの役割を解明することを目的としている。吸水・蒸散・生長などにともなう植物体内の水の流れを解明するためには、細胞の水透過率を評価することが不可欠である。既存の水透過率計測法には、ガラス細管を組織に挿入し膨圧変化を測定するプレッシャープローブ法、磨砕した組織から抽出した膜画分の収縮を計測するストップトフロー法がある。しかしプレッシャープローブ法では深部組織の細胞は計測できず、ストップトフロー法では個々の細胞の水透過率を計測できない。また、プロトプラスト(細胞壁を除去した植物細胞)を用いた水透過率測定手法が発表されたが、計測の複雑さや測定誤差等、実験装置の構造に起因した問題点がり、改良が望まれていた。そこで、本年度は上記問題点を解決した新しい水透過率計測手法を開発することを目的とし、期待通りの成果を上げることができた。手法の具体的内容は下記の通りである。まず、実体顕微鏡下で植物組織の標的部位からプロトプラストを単離する。次いで浸透ポテンシャル差に依存したプロトプラストの膨脹・.収縮過程をモニタする実験システムを考案した。さらに、上記の実験システムにより得られた実験結果を、プロトプラストの膨脹・収縮プロセスを再現する理論式に適用することにより水透過率を算出する。以上の方法によって、従来よりはるかに高精度(±10%程度)に細胞の水透過率を計測することが可能となった。ところで、成熟した植物細胞は内部に巨大な液胞を発達させ、生命活動の中心である細胞質は、細胞膜と液胞膜に挟まれた狭い空間に位置している。このため、細胞膜と液胞膜の水透過率は、細胞質の水分バランスに直接影響を及ぼす。そこで現在、上記の手法をさらに発展させることにより、細胞膜と液胞膜の水透過率を分離評価する手法を開発中である。
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