水は、植物の葉からの蒸散によって多量に消費される。植物がしおれずに正常な生命活動を行うためには、根からのさかんな吸水が不可欠である。ところが根の吸水は温度の影響を強く受け、低温では吸水が著しく抑制される。低温による吸水抑制の原因は、根の細胞の水透過率低下にあると推測されるが詳細は明らかでない。近年、細胞の水透過を司るアクアポリン(生体膜の水透過孔)が注目されており、アクアポリンの発現および機能が低温によって影響を受けている可能性が示唆されている。そこで、アクアポリンを視野に入れ、低温による植物の吸水抑制のメカニズム解明を目指した研究を実施した。H18年度は、プロトプラストの水透過率を様々な温度条件で測定する手法を構築した。ダイコンの幼根から単離したプロトプラストを25℃から8〜9℃に冷却すると、水透過率が約3分の1に低下することがわかった。また、根の低温処理がイネの吸水能力とアクアポリン量に及ぼす影響についても解析した。水耕で育成したイネの地上部温度を25℃に保ったまま地下部を10℃に冷却し根の吸水能力を溢泌液速度で評価した。またイネアクアポリン分子種全33種類の中から、根で重要な役割を果たす分子種に着目し、アクアポリンの発現量(タンパク質レベル)をイムノブロット法で解析した。その結果、根の溢泌液速度は低温処理開始直後に激減するのに対して、アクアポリン発現量は、低温処理開始5時間経過してもほとんど減少しないことが明らかになった。このことから、低温による吸水能力の低下はアクアポリン発現量の減少ではなく、アクアポリンの水透過活性の低下によるものと推測された。
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