我々が確立したモデル実験系を用いて、インキュベート前後のポルフィリン含量をHPLCにより測定したところ、亜鉛プロトポルフィリンIX(ZPP)は増加するものの、ヘムの増減は見られなかった。このことは、ZPPはヘム内の鉄が亜鉛に置換して形成するのではなく、他の経路から形成されている可能性が示された。昨年報告したように、微生物不在のモデル実験系において豚肉からZPPがpHやイオン強度、豚肉含量、温度などにより依存性を示したが、このモデル実験系に金属キレート剤EDTAを添加すると、ZPP形成条件と非常に似た依存性を示して、金属の配位していないプロトポルフィリンIX(PPIX)が形成された。このことからZPP形成は、PPIX形成に強く依存していることが考えられる。ヘムの生合成系においてPPIXは無色のプロトポルフィリノーゲンIXが酸化されて形成するが、モデル実験系において食肉の酸化還元電位をわずかにあげることにより、ZPP形成量は増加し、酸化還元電位を低下させるに従いZPP形成量は減少した。このため、PPIXやZPP形成には酸化反応も重要であり、ZPPはプロトポルフィリノーゲンIXから新しく形成されたPPIXに亜鉛が挿入されてできるという新しい形成経路の存在の可能性を示した。 パルマハムにおけるZPPの分布を自作の紫色LEDライトと画像解析を用いて検討したところ、赤肉よりも脂肪組織の蛍光が強く、筋肉の存在位置により蛍光の強さは異なり、パルマハム内にはZPPは偏在していた。筋間脂肪や皮下脂肪の内側で蛍光が強く、隣接する赤肉では蛍光が弱いことから、パルマハム内で形成したZPPは製造中に脂肪組織に移行している可能性も示された。パルマハム中のZPPを油脂で抽出できたことからもこれを支持できるが、抽出量が少ないため、パルマハムにおけるZPPの存在形態は単一ではないのかもしれない。
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