我々はこれまでに、亜鉛プロトポルフィリンIX(ZPP)はヘムの鉄と亜鉛に置換によるものではなく、別に形成されたプロトポルフィリンIX(PPIX)に亜鉛を挿入することにより形成されることを明らかにした。パルマハムなどの伝統的乾塩漬食肉製品ではZPPは水で抽出できるが、一般に試薬などのZPPは水に溶解しないことからも、ZPPはミオグロビン(食肉中の主要なヘムタンパク質)以外のものと結合して存在していると考えられる。そこで、パルマハムの水抽出物から硫安分画、イオン交換クロマトグラフィならびに分取用等電点電気泳動により、ZPPを含む画分を精製し、SDS-PAGESより1本の主要なタンパク質のバンドが検出された。MALDI-TOF MSを用いて、このタンパク質は血清アルブミンと同定された。免疫沈降法によりパルマハム水抽出物からアルブミンを精製して、75%アセトン抽出法によりZPPの存在が確認された。一方、水抽出できないZPPが残存していることなどから、ZPPと結合しているタンパク質はアルブミン以外にも存在していると考えられる。 亜硝酸塩などの発色剤を添加した食肉製品ではZPPはほとんど見られないことが知られている。この原因を解明するために、モデル実験を用いて検討したところ、亜硝酸塩の酸化作用が原因ではなく、一酸化窒素がZPPならびにその前駆物質であるPPIXの形成を阻害することにより、結果的にZPP形成阻害が起こることを明らかにした。一酸化窒素は各種酵素を阻害することが報告されているが、PPIXならびにZPP形成においてどこに作用しているか、現時点では明らかにできなかった。しかしながら、これらの結果は、発色剤を使用しない伝統的乾塩漬食肉製品中のZPP形成機構の解明に重要なキーとなりうると考えられる。
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