嚢腫卵胞には顆粒層を有するものとそうでないものが存在していた。それぞれの卵胞液中のステロイドホルモン濃度を測定すると、顆粒層を有する嚢腫卵胞ではエストロゲンの濃度が高く、プロゲステロンの濃度は低かったが、顆粒層を有さない嚢腫卵胞ではその逆の結果となった。正常卵胞では卵胞の直径が増加するに連れて卵胞膜における血管面積が増大した。嚢腫卵胞ではその面積がさらに増大していた。また、嚢腫卵胞では血管内皮増殖因子のmRNA発現および蛋白の存在が認められた。以上のことから、嚢腫卵胞の過度の膨大は血管機能の亢進による卵胞液の流入による可能性が考えられた。 嚢腫卵胞の顆粒層細胞にはエストロゲンレセプターαおよびβが存在することを免疫組織化学およびWestern blotにより確認した。したがって、顆粒層細胞で合成されたエストロゲンはparacrineあるいはautocrine的に顆粒層に作用していることが推察された。 嚢腫卵胞を罹患した牛に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を投与し、その時の血中ホルモン濃度を調べた結果、GnRH投与時に血中エストラジオール濃度が高かった牛において有意に高い割合で排卵が誘起された。顆粒層を有する嚢腫卵胞では卵胞液中のエストラジオール濃度が高かったことから、顆粒層を有する比較的初期の段階の嚢腫卵胞ではGnRH投与により排卵を誘起できることが推測された。 以上の結果から、嚢腫卵胞の初期の段階でのホルモン治療が有効である可能性が示され、この結果は、今後の嚢腫卵胞の治療法に有用であると考えられる。
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