核移植技術を用いた体細胞クローン動物の作出は、未受精卵子の中に含まれると考えられる体細胞核を初期化することができる因子の存在を明らかにした。そこでこの体細胞核初期化因子の同定を目的に、ウシ体細胞核移植系を用いて未受精卵子のタンパク質二次元電気泳動と質量分析から同定を試みた。体細胞核初期化因子は、核移植後の胚の体外発生率を指標に初期化を検討した結果、未受精卵をCa2+で活性化すると一定時間で消失することからその違いを比較した結果、23KDaのタンパク質の顕著な変化と一致した。このタンパク質のスポットをLC-MS/MSで質量分析を行った結果、TCTP(translational controlled tumor protein)であることが明らかとなった。このタンパク質はラジオアイソトープP32の取り込み試験によりリン酸化されることから、TCTP遺伝子をウシ卵細胞質よりクローニング・塩基配列の決定・融合タンパクの作成を行い、これを基質として用いてTCTPのリン酸化能をkinase assayにより調べた結果、卵成熟過程においてGVBD期でリン酸化されその後MII期までリン酸化状態であった。またCa2+による活性化刺激後、一定時間後の前核形成時期において脱リン酸化状態となり、同時期に初期化能を消失する核移植の結果と一致するものとなった。このことから卵細胞質内のTCTPのリン酸化・脱リン酸化により体細胞核の初期化との相関がある可能性が示唆された。このことから今後さらなる詳細な検討が必要であると考えられる。
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