核移植技術を用いた体細胞クローン動物の作出は、未受精卵子の中に含まれると考えられる体細胞核を初期化することができる因子の存在を明らかにした。またその因子は、卵細胞における主要なリン酸化酵素であるMPF及びMAPKは直接関与しないこと報告した。そこでさらなる詳細なMPFと初期化との関係を明らかにする目的で、卵細胞のMPF活性を紡錘体阻害剤を用いて人為的に上昇させた後、体細胞核移植を行い発生率が上昇するか検討した。その結果、紡錘体阻害剤の適切な使用によりM期である卵細胞質はスピンドルチェックポイントによりMPFの制御因子であるcyclinBの分解が抑制され、卵細胞のMPF活性は約20%上昇した。次いで体細胞核移植を行ったが核移植卵の胚盤胞期及び受配雌への移植をしても発生率の向上は見られなかったことから、明らかにMPFが体細胞核の初期化に関与してないことが明らかとなった。さらに、紡錘体阻害剤により活性化されるスピンドルチェックポイントを核移植卵で調べた結果、未受精卵子の場合と異なり活性化しないことが明らかとなった。昨年度未受精卵子のプロテオームにより同定したTCTP (translational controlled tumor protein)と体細胞核の初期化機構との相関を合成RNAおよびdsRNAのウシ未成熟卵子にインジェクションにより調べた。その結果、RNAにより強制発現させた卵子はMI期で細胞周期を停止させたが、dsRNAにより発現を阻害した卵子は通常にMII期まで達したがその後の体外受精・体細胞核移植により発生能を調べると体細胞核移植卵のみ発生能は低下した。ことことからTCTPと体細胞核の初期化機構との相関が示唆されたが、さらなる詳細な検討が必要であると考えられる。
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