1.屠場由来卵巣から卵子を吸引し、体外成熟・受精・培養を行い、授精3日目に8細胞期胚を得て以下の実験に供試した。 (1)3種のグルコース濃度(1、2.5及び4mM)のmSOF培地中で胚を培養し、媒精後8日目に胚盤胞期まで発生した胚を回収し、PCR法によって性を判定した。2.5mMまでの培養液へのグルコース添加は発生率には影響を及ぼさなかった。しかしながら、性比は2.5mMのグルコース添加でも有意に雄に偏ることが示された。 (2)3種類の培養液(無糖mSOF、5.56mM グルコース添加mSOF、5.56mM フルクトース添加mSOF)で培養し、媒精後8日目に胚盤胞期に発生した胚を回収し、PCR法によって性を判定した。5.6mMのグルコース添加は発生率を有意に低下させた。しかしながら、フルクトースの添加は発生率を低下させることは無かった。性比も同様にグルコースでは有意に雄に偏ったがフルクトースではこの偏りが見られなかった。 (3)種々の濃度のG6PD阻害剤(DHEAまたは6-AN)を含む4mMグルコース加mSOF培地中で胚を培養し、媒精後8日目に胚盤胞期に発生した胚を回収し、PCR法によって性を判定した。グルコースの添加により生じた性比の偏りは、G6PD阻害剤の添加により消失した。 以上の結果から、8細胞期胚以降に見られる性比の偏りはグルコースの存在により生じ、これは解糖系ではなくペントースリン酸系へのグルコースの流入によって生じることが明らかとなった。 2.屠場由来卵巣から卵子を吸引し、体外成熟後、グルコース存在下で授精を行い、媒精後6または18時間後に卵を取り出し、培養に供した。媒精後72時間に8細胞期に発生した胚を回収し、その性をPCRにより決定した。その結果、媒精中のグルコースの添加は、卵の受精に悪影響を及ぼしたが、性比に影響を及ぼすことはなかった。以上の結果から受精および前核形成時のグルコースの存在は性比に影響を及ぼさないことが明らかとなった。
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