初期胚発生における高温処理がストレスおよび酸化還元反応に関連する遺伝子発現に及ぼす影響について検討を行った。屠場由来卵巣由来の牛卵子を体外受精した胚を用いた。体外受精後38.5℃培養したものを対照区、体外受精後2日目に41℃ 6時間処理を行った胚を高温処理区とした。高温処理終了直後、高温処理終了24時間後に対照区、高温処理区ともに胚のサンプリングを行い、mRNAを抽出後RT-PCRにて遺伝子発現を検討した。遺伝子の発現は、内部標準に対する発現率で算出した。検討遺伝子は、内部標準としてHiston H2a、ストレス関連遺伝子としてHSP70、抗酸化関連遺伝子としてGPx、GCS、Mn-SODを用いた。 1.高温処理直後のタイミングでサンプリングした胚の遺伝子発現量に対照区、高温処理区による違いは認められず、24時間後のサンプリングでは対照区、高温処理区に遺伝子発現量の差がある傾向が認められたことから、高温曝露後に胚における遺伝子レベルでの反応には24時間はどの時間が関わることが明らかとなった。 2.24時間後のサンプリング胚では、高温処理区により対照区と比較してストレスタンパク質HSP70及び過酸化水素の還元に関与するGPxの発現が増大し、グルタチオン合成に関わるGCSは逆に減少する傾向が認められた。この結果は熱ショックタンパクの発現亢進が進むことを示唆し、さらに高温曝露によって増加した活性酸素類を除去する機構としてグルタチオンが大きく関わっていることを示唆している。 3.スーパーオキサイド除去に関わるMn-SODでは高温処理による発現の変化は認められなかった。Mn-SODは主にミトコンドリアに存在する酸化還元酵素であるが、この結果から牛初期胚のスーパーオキサイド除去機構にMn-SODが関与している可能性は低いことが示唆された。
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