本研究は、臨床症状が類似している感染症の鑑別を、より短時間で、より簡単に行うための多病原体同時検出システム開発を目指す。本年度はHemi-probeとPadlock-probeを用いたLigation-mediated PCR法のウイルス核酸の検出について検討した。Hemi-probeは、病原体の遺伝子の標的配列(約40塩基)の相補配列を二等分し(各々約20塩基(5'端よりa'およびa))、それぞれの配列の5'あるいは3'端に18塩基のPCRのプライマー結合部位(各々b'およびb)を持つ2つのprobe(b'+a'およびa+b)を用いる。一方、Padlock-probeは、2つのHemi-probeのプライマー結合部位に無作為な配列を持つ約60塩基(c)を挿入し、結合した一つのprobe(a+b+c+b'+a')を用いる。ウイルス性の感染症は発熱を主徴とし、風邪様の症状で始まるものが多いため、感染初期の臨床症状は類似している。今回は、日本に存在する出血熱ウイルスの一つであるハンタウイルス(HTNV)のヌクレオキャプシド蛋白質の遺伝子と、蚊媒介性のフラビウイルスのひとつであるウエストナイルウイルスおよび日本脳炎ウイルスのRNAポリメラーゼの遺伝子(NS5)のRNAあるいはcDNAを標的遺伝子とした。各ウイルスに対するHemi-probeを用いてLigation-PCRを行うと、濃度に依存して標的遺伝子を特異的に増幅することが出来た。更に、HTNVに対するPadlock-probeについても同様に検討したところ、標的遺伝子を濃度依存的、特異的に増幅出来た。これらの結果は、両probeを用いたLigation-PCRにより、標的のウイルス遺伝子を特異的に検出できることを示しており、多病原体同時検出システムの今後の開発に繋がるものと考えられた。
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