当初の研究計画においては、ラオスの野生イネ集団のみを対象として実験を進めていくことになっていたが、ミャンマーの野生イネ集団より採集された材料も利用することが可能になったため、これらも含めて実験を行った。野生イネの種子より植物体を育成し、個体別に葉からDNAを抽出した。このDNAを用い、マイクロサテライトマーカーによる多型解析を行った。集団の遺伝子多様度を算出し、集団間で比較したところ、多年生生態型の集団の多様度が、一年生生態型の集団の多様度に比べ高くなる傾向を示した。また、マイクロサテライトアレルの集団内分布を調査したところ、一年生生態型の集団内ではアレルの分布がほぼ一様であったのに対し、多年生生態型の集団内ではアレルの分布が偏っており、遺伝的な細分化が生じていた。それぞれの集団に隣接する水田から採集された栽培イネについても同様の解析を行い、野生イネと遺伝子型の比較を行った。多年生生態型の集団では、水田近傍で採集された野生イネ個体に栽培イネと共通のマイクロサテライトアレルが多く確認できた。一年生生態型の集団では、集団内の特定の位置に偏らず、栽培イネと共通のアレルを持つ野生イネ個体が確認できた。このことは、多年生生態型の集団と一年生生態型の集団とでは、栽培イネからの遺伝的浸食の生じ方に差異があることを示唆している。DNA抽出後の植物体を帯広畜産大学ガラス室内で生育させた。しかしながら、帯広の夏期環境下では短日処理を行っても多くの個体が生殖生長を開始しなかった。そのため本年度は、野生イネ個体の形質評価を十分に行うことができなかった。 日本雑草学会第43回講演回において開催された、第1回遺伝子組換え植物の生態系影響評価研究会に招待され、本年度の研究成果の一部を発表した。
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