本年度の研究では、南海トラフ、沖縄トラフから採取した深海底表層堆積物を対象に研究を行った。堆積物中に有機塩素化合物を添加し、長期間のインキュベーション実験を行い、有機塩素化合物の分解活性の測定を行っているが、これまでに有意に明確な活性を示す試料はない。この結果は、16S rRNA遺伝子として検出されているDehalococcides近縁種が有機塩素化合物を分解することは出来ないという証明にはならない。むしろ、海洋底堆積物中の微生物活性の低さを反映していると考える。なぜなら、海底下数m以深においては、一般的な従属栄養細菌の培養すら困難であり、一般的な深海底においては活動的な微生物生態系は表層に限られていると考えられているからである。特に今回は、Dehalococcides近縁種が高頻度で検出される、比較的貧栄養と考えられる海域の堆積物を解析に用いたことにも、原因があると考えられる。次年度は、遺伝子レベルの出現頻度が低くとも、微生物生態系自体の活性が高い冷湧水帯や熱水活動域内の堆積物を用いて再度、研究を行いたい。一方、培養によらない研究として、dehalogenase等の有機塩素化合物を分解する酵素をコードする遺伝子について、既知の有機塩素化合物分解菌由来の各種dehalogenaseの塩基配列を元に、プライマーを設計し、PCRによる増幅を試みたが、これまでのところ成功していない。PCRによる遺伝子検出は既知の遺伝子配列に基づくプライマー設計に依存するため、今年度の結果がdehalogeneaseの存在を否定することにはならない。今後はメタゲノム解析を視野に入れた研究を進める予定である。
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