近年、心血管系疾患において三量体G蛋白質と共役している7回膜貫通型受容体からのシグナルが、その病態の進行や抑制に重要であることが判ってきた。申請者はごく最近、血圧調節に重要なアンジオテンシンI型受容体と高い相同性をもつマウスの7回膜貫通型受容体・APV(AT1-related apelin/virus)をクローニングした。本研究の目的は、(1)細胞レベルにおけるAPV受容体の情報伝達系路と生理的意義の解明と、(2)APV受容体の遺伝子操作マウスを用いて、組織・個体レベルにおける血圧制御、動脈硬化症、心筋症や心肥大に対するAPV受容体の作用点を解明することである。 (1)APV受容体の細胞内情報伝達経路の解明 APV受容体安定発現細胞株を樹立し、細胞内情報伝達として三量体G蛋白質のGiと共役していること、さまざまな生理作用を担うリン酸化酵素であるAktを活性化することを明らかにした。さらにAktへ至るシグナル伝達経路の同定と、その生理的意義として細胞遊走活性を有することを突き止めた(投稿中)。 (2)APV受容体の個体機能解析 APV受容体を介するシグナルに関して、遺伝子欠損マウス・遺伝子導入マウスを作製することにより正常、消失、増強という3つの状況を準備し、血圧調節・心血管系イベントへの影響を直接評価する。(1)APV受容体遺伝子欠損マウスの作製:ホモ遺伝子欠損マウスの作出に成功し、APV受容体が血圧降下作用を有すること、また、この血圧降下作用には一酸化窒素(NO)系の活性化を解することを証明した。(2)APV受容体遺伝子導入マウスの作製:血圧調節や各種疾患の進展において極めて重要である血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に着目し、これら細胞特異的にAPV受容体が過剰発現する遺伝子導入マウスの作製を試みた。現在、各APV受容体遺伝子発現マウスの作製に成功し、その表現型の解析を行っている。
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