1.Tsix遺伝子のジーントラップES細胞を用いたXist遺伝子領域のヒストンメチル化修飾の解析: 未分化状態のES細胞などと分化した体細胞とでは染色体DNAやヒストン蛋白質の修飾が異なることが知られている。平成16年度には未分化状態特異的なアンチセンス遺伝子の転写が染色体DNAあるいはヒストン蛋白質の修飾変化を引き起こしセンス・パートナー遺伝子の制御を行っている可能性について検討し、Tsix遺伝子トラップ細胞ではXist遺伝子領域のhistone H3 lysine 27残基(H3K27)のトリメチル化修飾が野生型細胞に比較して顕著に増加していることを示した。平成17年度には引き続き分化誘導時のH3K27トリメチル修飾の変化について検討した。その結果、Xist遺伝子座の同修飾は分化が進むとともに減少した。さらに我々はオスES細胞株でも同様のTsix遺伝子トラップ細胞を作成し、メスES細胞株の場合と同じようにH3K27トリメチル化修飾が亢進することを確認した。これらの結果から、未分化細胞特異的にH3K27のトリメチル化修飾を引き起こす活性が存在し、この活性はアンチセンス遺伝子転写によって抑制を受けることが明らかになった。細胞内で多数認められるアンチセンス遺伝子の役割や作用機序については今まで解析が進んでいなかったが、我々の結果はアンチセンス遺伝子がクロマチン構造の制御により他の遺伝子発現を制御している可能性を示唆している(投稿準備中)。 2.テトラサイクリンによりTsix発現をコントロール可能なES細胞株およびマウスの作成: 平成17年度中に目的のES細胞株の作成に成功したが、細胞レベルの解析ではテトラサイクリンによってTsix遺伝子発現はコントロール出来なかった。テトラサイクリン・トランスアクチベータ遺伝子の発現量が多すぎて細胞毒性が現れたことが原因として考えられた。
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