医薬品リード化合物の特定の元素を他の元素に置き換えることで、その生物活性を向上させる手法は医薬品開発においてよく検討されている。特に、フッ素原子の導入が注目されている。本研究では、遷移金属触媒を用いることにより効率的な触媒的不斉フッ素化反応を開発すべく研究を行なっている。 本年度は、活性メチレン化合物がカチオン性パラジウム錯体と反応しキラルなパラジウムエノラートが生成することを利用して、触媒的不斉フッ素化反応の開発を検討した。検討の結果、β-ケトエステルに加え新たにβ-ケトホスフォン酸エステルのフッ素化が高エナンチオ選択的に進行することを見出した。本フッ素化反応では環境調和性の高いエタノールを溶媒として用いると反応が円滑に進行し、環状および鎖状のβ-ケトフォスフォン酸エステルに対して最高98%eeで目的とするフッ素化体が得られた。この反応はこれまでに全く報告例がなく、新しいフッ素化ホスフォン酸の合成法として有用であると考えている。今回得られたα-フルオロホスホン酸エステルを加水分解することにも成功しており、現在リン酸エステルミミックとしてホスファターゼ阻害剤として生物活性を検討中である。 これまでの研究は電子吸引基に挟まれた活性メチレンのフッ素化に限られており、その他のカルボニル化合物の触媒的不斉フッ素化反応は報告例がなかった。我々は、生物活性を有するオキシンドールが多数報告されていることに着目し、オキシンドール類の3位不斉フッ素化反応の開発には医薬化学研究に有用であると考えた。検討の結果、3位に様々な置換基を有するオキシンドール類のフッ素化が円滑に進行し、最高96%eeで目的物を得ることに成功した。更に、この反応を用いることにより、脳卒中治療薬として期待されるBMS204352の触媒的不斉合成にも成功した(投稿中)。
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