研究概要 |
エンジアレンは穏和な条件下で環化し、オルトキノジメタンを与えることが知られているが、これを有機合成に利用している例はほとんどない。そこで著者は、エンジアレンの形成を経るオルトキノジメタンの[4+2]型付加環化反応の開発に着手した。 エンジアレンの生成法として、ベンゼンスルフェニルクロリドを用いるプロパルギルアルコール誘導体の[2,3]-シグマトロピー転位を利用することとし、2つのプロパルギルアルコールユニットをベンゼン環のオルト位に配置した化合物を基質に設定して、またフマル酸ジメチルを求ジエン体として上記タンデム環化反応を検討した。その結果、トリエチルアミン存在下、テトラヒドロフラン中-78℃でビスプロパルギルアルコール誘導体にベンゼンスルフェニルクロリドを滴下し,徐々に昇温することにより,室温以下の温度で転位,エンジアレンの環化,[4+2]型付加環化が進行し、目的の環化体が高収率で生成することを見出した。本反応では、フマル酸ジメチルのみならず各種電子不足アルケンや電子豊富なアルケンも求ジエン体として利用可能であることがわかった。また,芳香環を持たない鎖状の基質でもタンデム環化反応は問題なく進行し、さらには分子内[4+2]型付加環化反応にも展開することができた。 一方、芳香環を有する基質において、ベンゼンスルフェニルクロリドの代わりにクロロジフェニルホスフィンを[2,3]-シグマトロピー転位に利用すると、求ジエン体存在の有無に関わらずナフトシクロブテンが高収率で得られることを見出した。本反応は反応機構的にも興味深いが、炭素-リン結合を切断することができれば、新規シクロブテン合成法としても利用価値の高い反応になるものと考えている。
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