国際的な緊急課題として薬剤耐性マラリア原虫に有効な既存薬とは異なる新規構造を有する抗マラリア剤が強く求められている。そこで北里研究所では、薬剤耐性マラリア原虫を用いた抗マラリア剤のスクリーニングが精力的に行われており、その過程でボレリジンが単離された。ボレリジンは、薬剤耐性マラリア原虫にも優れた殺活性を示し、かつ毒性が低く選択性が高いことが立証された。よって今後のボレリジンをリード化合物とした新規マラリア薬の開発は、今日問題となっているマラリア流行を打開する大きな切り札となる可能性が高いと言える。今後より優れた抗マラリア薬を開発していくためにも、大量合成が可能で、かつ幅広いボレリジンの誘導体合成に道を開く効率的な全合成経路の確立に着手することとした。C1-C11セグメント(A)は、酵素を用いた非対称化により得られる既知のモノアセテート体より、位置選択的なカルボチタネーション、水酸基との配位を利用した立体選択的な接触還元、Reformatsky反応を鍵反応として、その合成を完了した。C12-23セグメント(B)は、光学活性な既知ジオールより、キレーションを利用した立体選択的なアリル化反応を鍵反応としてアリル付加体を構築した後、Wittig反応による増炭を繰り返し、合成を完了した。続いてA及びBを山口法を用いて縮合させ環化前駆体へと導いた後、SmI_2を用いた分子内Reformatsky-type反応を行ったところ、望む環化体(C)を含む3種の環化体を与えた。最後にCに対して保護、脱保護、酸化を行いポレリジンの全合成を達成した。 以上のようにして研究代表者はボレリジンの全合成に成功した。今後これらの全合成経路を改良すると共に、応用して、種々の誘導体合成を行う。そして構造活性相関研究を進め、より優れた抗マラリア剤を開発して行く。
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