ヒトやマウスに見られるP糖蛋白やMRPと同様に、構造上相関の無い多くの毒物を認識し、細胞外へと排出できる膜蛋白質が、細菌類にまで広く分布していることが近年明らかにされてきた。これらの蛋白質は、化学療法における大きな障害として注目されるだけでなく、多くの薬剤を非常に高い特異性で輸送できるという一種矛盾する機能を有している点で興味深い。本研究は細菌において見出された最も小型の多剤排出蛋白質(Smr)の基質輸送機構を、主に、蛋白質自身の蛍光測定により明らかにすることを目的としている。 蛋白質が内在するTrpの蛍光を測定するためには、目的蛋白質を高純度で精製する事が必須である。今年度は、そのための大量発現系及び精製系の確立を目指してきた。その結果、大腸菌のSmrであるEmrEを、T7gene10蛋白質に融合させることで、培地1Lあたり100mg以上の融合蛋白質を得られることが明らかとなった。EmrE換算では28mgにも相当し、その後の高純度精製に耐え得る十分な量である。現在、精製の最終段階を検討しており、次のステージ(活性測定、蛍光測定)へと近く進むことができると考えている。一方、アミノ酸組成が特徴的で、EmrEなど他のSmr蛋白質との比較対象として有益と考えていた好塩菌のHsmrの大量発現も試みてきたが、この蛋白質はより特殊な発現条件が必要であることが判った。 膜蛋白質の分子機構を研究する上で、その膜内での存在様式(膜貫通トポロジー、多量体形成の有無及びその様式)の決定は重要であるが、Smr蛋白質ではまだ確定していない。大量発現系の構築と平行して、枯草菌のSmrの様々な変異体の作成とその活性測定を行ってきた。その結果、トポロジーを決定する一次構造部位を推定した。その部位を変異させることでトポロジーが変化するという結果を得ている。詳細は近く論文にて公表する予定である。
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